【アークナイツ】9章ストーリー感想と登場人物まとめ
今回は考察ではなく、感想。
バグパイプとサイラッハについては掘り下げると長くなるため、その他の主要なキャラクターについて言及。
レユニオン残党によるタルラ奪還
読後感というのは、最後に語られたシナリオに印象付けられるもので、終わったかに思えたレユニオンに新たな役割を吹き込んだ点で、9章が新たな物語の序章という位置づけであると提示された感覚が強く残っている。
大陸版の情報を多分に浴びている筆者ではあるが、9章についてはネタバレに触れることなく日本版シナリオを読んでおり、初見の印象語りとなるが、タルラがロドスの檻を破ることになったことについては、個人的にそこまで衝撃的なものではなかった。
Yostarが作成したアニメーションPVにてロドスが襲撃されていること、そして大陸版共通PVの最後にアラート音が鳴り響いていたこと…という所謂“考察”要素はあるが、それ以上にシナリオとして、生きているタルラに役割を与えるためには、納得のいく理由で外へ連れ出す必要があるからだ。
8章実装前の2020年10月に執筆した考察記事にて、タルラはコシチェイ伯爵に操られているのではという推測を筆者は立てていたこともあり、
【ウルサスの子供たち考察】生き延びし者たちの過去と今(アークナイツ)
怒号光明のPVで「RU01」という英数字と共にタルラの画像が表示された際、もしやタルラはロドスのオペレーターとして実装される日が来るのでは、という幻想を見た。
しかし、フロストノヴァ、パトリオット、ファウスト…と、ロドス陣営のキャラクターに対して真摯な心を向けた者たちはそれぞれ舞台から退場しており、(操られていたとはいえ)その諸悪の根源と印象づけられた存在がそう易々と仲間になってしまっては、重厚な世界観を重視するアークナイツにはそぐわないものとなってしまう。
あまりにも短すぎる日数で駆け抜けた1-8章までと異なり、9章は1年間という空白期間を得ている。勿論、ロドスには各イベントで語られたエピソードの数々が存在するわけだが、タルラに関する物語は直接語られていないため、如何様にも後付けすることができる。
ドクターやアーミヤが対話を試みたかもしれないし、チェンがドッソレスで買ってきたお土産を渡したかもしれない。
チェン:(ロドスのほうは……シラユキに、バグパイプ、アーミヤ、それと……彼女の分か?)
『ドッソレスホリデー』DH-1 思いがけぬ参戦
対話できるオペレーターは限られているだろうが、タルラを匿った1年間はロドスにとって決して短くない期間だからこそ、アーミヤもケルシーも今回の事件をそこまで悲観しなかったように思える。
レユニオン残党によるロドス侵入は一見すると、クロージャによるやらかし感が強く見える。機密情報を外部に漏らすことはセキュリティ上の理屈を並べ立てるまでもなく論外であり、本来であれば厳しく処罰される行為だろう。
しかし、過去のイベントを振り返ってみると、ドクターも外部への情報流出に一枚噛んでいる。
ドクター:君が車から持ち去った書類について不問とする。
我が眼に映るまま』終ぞ希望を抱かず
ドクター:そういう取引でどうだろう?
キャノット:ハハハ……
キャノット:完璧な条件だ、友よ。交渉成立だな。
加えて、ケルシーが手術中だったこと、エリートオペレーターがブレイズ一人だったこと…などの状況を並べると、9章最後の騒動はロドスにとっては出目の悪かったファンブル(致命的失敗)であるが、幸いにして誰一人として物語から退場した描写はない。
むしろ例えるならば骰子よりもチェスが妥当だろうか。両者共にキングとビショップだけになった場合、チェスでは両者合意の上で引き分けとなるケースがある。※ビショップの数は問わない
ウルサスをはじめとしたタルラを狙う勢力からの注目を逸らせたこと、いつも飄々としているクロージャを本気にできたことなど、むしろプラスに作用する部分も多い。盤面をリセットした上で、ヴィクトリアという新たな舞台に臨むことは、決してロドスにとって悪い選択とは言えないだろう。
コシチェイの傀儡となっていたタルラであるが、自身に関する釈明をする様子もなく、これからその責め苦を負うことになるだろう。しかし、その罪滅ぼしを終えた先にはロドスという居場所が待っていると、筆者は未だに幻想を見ている。
リードについて
今後、アークナイツでドラコという種族は、全て重要人物なのか…というくらいに、リード(ラフシニー)の役回りも重かった。
タルラと同様にリードもまた、精神的支配により傀儡となり果てた人物と言え、姉に代わって「リーダー」を押し付けられた存在。
リードの基地スキルは「一人きり」「影武者」となっており、彼女が担う不幸な役割を象徴しているかのよう。同じ姿、同じ顔の人が会いにきたら戦わないようにとドクターへ忠告するところを見るに、外見が瓜二つの姉の代替品として扱われてきたと推測することができる。
リードの自己評価は極めて低く、自身の声を押し殺し、周りから求められるままにダブリンのリーダーという役回りを演じてきたことが、彼女のボイスからも。
私を助けたのは……キミたち?私の名前……?「リード」でいい……水辺の葦のような、どうなってもいい存在……。
リード入職会話
「葦」というと、フランスの哲学者パスカルの「人間は考える葦である」という言葉が思い浮かぶが、パスカルが言わんとしたのは「人間は葦のようにか弱い存在だが、頭を使って考えることができ、考えることこそ人間に与えられた偉大な力だ」ということだ。
自身で思考することなく行動してきた彼女が選んだ「葦」という言葉。原義としては彼女に足りていないものを表す比喩であるところに、制作側の強いメッセージ性を感じる。
心を失った少女が徐々に自らが内包する声に耳を傾け、明確な意思を持ち始めるという物語はベタではあるが、ライターの味付け次第でその定番メニューは非常に美味しいものとなる。ヴィクトリア貴族の会合場所を燃やし尽くしたという負の印象は強く残るが、Outcastがリードを助けた一幕でその表情の変化がつぶさに描かれている場面もまた印象深く、その掘り下げがあればあるほどリードへの感情移入はしやすくなる。
槍を使いこなせていないというボイスや、アーツで周囲の環境を根こそぎ燃やし尽くすような描写を鑑みて、成長した暁には術師として異格化する未来を期待したいところ。
Outcastについて
ロドスの英名エリートオペレーターは退場する運命にあるのだろうか。
正直、覚悟はしていた。
剣の山を越え火の海を渡っても、邪悪に屈することはなかった。その銃は烈日の如く火を吐き、頭上の光は白昼にも勝る輝きを放つ。我らが友人Outcast、ここに眠る。
統合戦略おたから
整然と積まれた物資箱。収納ボックスとして使える。資料が入った箱はAceとOutcastの鍵でしか開けられない。どちらの鍵も既に灰燼に帰した。宿舎に飾れば、雰囲気を良くする。
ロドス作業室
プレイアブルのオペレーターとして実装されたキャラクターについては、ソシャゲという特質上退場させにくいだけに、NPCは散り際の美しさを強調するかのごとく、容赦なく退場させられていく。
これまで活躍してきたロドスのエリートオペレーターの面々に勝るとも劣らず、自己嫌悪に苛まれるサイラッハを精神的に救い、ロドスではなく個人の責任と銘打ってリードを救い、生かしていれば暴虐の限りを尽くしたであろう6人の罪人たちを自らの十字架と共に裁くという、9章における影の主役と言っても過言ではないレベルの活躍をしたサンクタ女性。
6発装填できる銃で5発までしか弾を込めない描写と、似たような見た目の敵NPCが6人登場した時点で察するものがあった。
サンクタは天使をモチーフとする種族で、ラテラーノはキリスト教としての特色の濃い(バチカン市国モチーフ)国家であるが、キリスト教において6は不完全を意味することがあり、ヨハネの黙示録では666が獣の数字とされている。
エクシアのスキルも最大で5回までしか撃たないあたり、ラテラーノでは6という数字が禁忌にあたるものなのかという推測を立てることもできるが、このあたりの事情はラテラーノイベント実装を待ちたいところ。
演出として目を引いたのが「会計官」「囚人」「放火魔」「劇薬学者」「略奪者」「雄弁家」それぞれの罪を暴いた上で、自身が「追放者(Outcast)」として(完全な数字を意味する)7番目に裁きを受けたこと。一般的に知られている七つの大罪とは異なる点が、ありきたりな設定を持ち出されて食傷気味になることを防いでいるのかもしれない。
ホルンについて
潮汐の下に登場したアイリーニのように、アークナイツにおいて正義や公正を口にする人物は精神的に未熟な一面を覗かせることが多いが、指導する立場・経験の豊富さからか、ホルンなりは成熟した価値観が彼女自身に深く根付いている。
楽器ホルンの由来はHorn(角)…角笛からきていると言われているが、狩りで合図を行う角笛のように、各楽器の名を関する兵士たちを束ねる隊長として、予測不能な展開に対処する人物として描かれた。
退場フラグがこれでもかと用意されていたOutcastに対して、こちらは生きているだろうなと。
・リタ・スカマンドロスという本名と貴族としての複雑な出自
・ヴィクトリアに多くいるアスランでもフェリーンでもヴイーヴルでもなく、ループスという差別化要素
・Outcastとの別れを悟ったサイラッハに対して、生存を信じるバグパイプの描写
…と彼女の取り巻く状況を整理してみると、9章で退場させるにはあまりに語り足りず、オペレーターとしての実装されるに足る情報量を持ち合わせている。
ホルンはヴィクトリア軍へ厚い忠誠心を持ち合わせているが、今の所ヴィクトリア軍がロドスと対立する理由はなく、カランドの代表や炎国の官僚を迎え入れているロドスがホルンを迎え入れたとしてもそれほど違和感は無い。
マンドラゴラについて
(メフィストという前例はあれど)アークナイツには珍しく、明確な悪役として登場したキャラクター。リードに代わって市民に手をかけるなど、物語上のヘイトを一身に受けているところから、まずロドス陣営として実装されることはないと思われる。
マンドラゴラは、地方によって「樫の樹」の根の辺りにも生えるという伝承がある。
リードの項ではパスカルを持ち出したが、同じ時代にイソップ寓話を基にした寓話詩で知られるラ・フォンテーヌという詩人についても触れておく。彼の傑作とされる作品には『樫と葦』と呼ばれる寓話があり、矜持と自信に満ち溢れた樫とか弱い存在である葦という対立構造が敷かれている。
非常に興味深いのが、ちっぽけな存在として表現される葦が樫に対して「私(葦)はあなた(樫)よりも風を恐れておらず、私(葦)は曲がりはするが、折れはしない」と言い放った点。
9章において、(精神的に)か弱い存在として描かれたリードと、高いプライドをもって行動するマンドラゴラは対照的に描かれており、物語がラ・フォンテーヌの寓話通りに描かれるなら、マンドラゴラの幹は根こそぎ倒れてしまうことになる。
アルモニについて
マンドラゴラと同様に悪役として描かれているアルモニ。バグパイプたちを指して顔馴染み・クラスメートと称していることから、彼女はヴィクトリア軍を退役してダブリンに加入したと考えられるが、その立ち位置は不明確な点が多い。
彼女のデザイン(シルエット)が登場したのは2020年拜年祭PVで、レユニオン編が完結する前からアルモニの存在は仄めかされていた。
アルモニは敵陣営のボスキャラにも位置付けることができる反面、直接市民を手にかけた描写が存在しないことや救助隊には手を出さないよう指示を出していることから、マンドラゴラと比較すると、Wのようにロドスへ加入する余地を残しているキャラクターとも捉えることができるだろうか。
その他NPC
シェイマス・ウィリアムズ
モデルとなったのは恐らくウィリアム・バトラー・イェイツ。イェイツはアイルランドのダブリン県で生まれた詩人で、民族演劇運動を通じてアイルランド文芸復興の担い手となった人物として知られている。
イェイツの手掛けた戯曲が始めて上演した際、ダブリン県にて「イースター蜂起」と呼ばれる武装蜂起が勃発しているが、9章においてもウィリアムズが登場してまもなく(アークナイツ組織の)ダブリンがヴィクトリア軍に対応する形で武装蜂起しており、プロットにおいてイェイツを意識したと思われる箇所が節々に見られる。
登場してすぐに退場してしまったキャラクターではあるが、間接的であれリードに与えた影響は大きく、今まで思考を閉ざしていたリードが、自分なりに考え始めるきっかけのような出来事が、リードが燃え尽きた詩を見つけた場面に描かれている。
ハミルトン大佐
ターラー人が大勢住むヒロック郡に攻勢を仕掛けたことで、ダブリンの炎を燃え上がらせた張本人。鉱石病患者を弾圧するウルサス人がいなければレユニオンがチェルノボーグを襲撃することが無かったように、ターラー人を粛清せんとするハミルトンのような軍人が居なければ、ダブリンも活動の裾野を広げることはなかったと解釈することができる。
活性源石を街に向けて砲火するという一軍人としてはあるまじき行為を働いているが、部下を失くしている背景があること、そしてターラー人だから放棄したわけでないと口にするアルモニを鑑みるに、ハミルトン大佐もまた大きな陰謀に巻き込まれた一人なのかもしれない。
自らの死期を悟り部下を逃がし、軍刀一つで敵に立ち向かうその姿は、まぎれもなく軍人そのものだった。
参考リンク
https://www.bilibili.com/video/BV1G7411k7G8?from=search&seid=7910268774601341546
感想募集
https://marshmallow-qa.com/shikine66
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