【アークナイツ】パラスのモチーフ考察

1月 9, 2022

基本情報

パラス(CN:帕拉斯/EN:Pallas)

公式オペレーター紹介

元ミノスの祭司、パラス。アテナイの地を離れ、アクロティ村に駐在していた時には、国境を接するサルゴン族の絶え間ない侵略に対し、地元の人々を率いて抵抗し、地域の観光や文化の発展を促した。

https://twitter.com/ArknightsEN/status/1475345702267932673?s=20

神秘的、端正、穏やか。ミノスの重鎮たる祭司。そんな印象は、1週間と待たずにすっかり覆された。医療オペレーターは、アルコール飲料の貯蔵庫から、想像を絶する労力で彼女を病室に連れ戻した。

「どうして……ヒック……私は未だここでやけ酒を飲んでいることしかできないのですか?戦場は……血を沸き立たせる唯一の、悪を倒し英雄になる可能性が秘める場所は……ヒック……このお酒と同じなんです!」

「それであれば、パラスさん、体調が落ち着いたら、戦闘オペレーターになってロドスのために戦いませんか?」

夜中に冷静さを失っていた祭司は、すぐに目を覚ましたようで、期待に満ちた眼差しでこちらを見た。一体、祭司パラスはどのような秘密を抱えているのか。彼女の今後に期待だ。

https://weibo.com/6279793937/KEP7M0eP5

種族

フォルテ(CN:丰蹄/EN:Forte)

「forte」は英語で「強み、長所」、「fortis」はラテン語で「力強い、勇敢」を意味する単語。ウシ科の動物をモチーフにしていると考えられる。

ギリシャ共和国南方の地中海に浮かぶクレタ島は、かつて古代ミノア文明が栄えた土地で、ゼウスとエウロペの子であるミノスが王として君臨していた。ミノスは海神ポセイドンに祈り、海中から出現した雄牛によって王位についたという伝説を有している。

ギリシャ神話の女神アテナ

勝利の女神、知恵の女神…彼女を形容する言葉には「女神」という単語が繰り返し登場する。

ギリシャ神話におけるオリュンポス十二神が一柱、アテナイ市の守護神にして知恵・戦いの神パラス・アテナと呼ばれる女神こそが、パラスのモチーフと考えられる。アテナを守護の女神として崇める伝統は、古代ミノア文明(ミノス文明)まで遡る。

紀元前700年頃の叙事詩『神統記』や『ビブリオテーケー』にアテナの誕生は記されている。クロノスの王権を簒奪しオリュンポスの王権を握ったゼウスは、最初の配偶者、女神メーティスとの間に生まれる子供により王権が奪われると予言を受け、妊娠したメーティスを飲み込み、禍根を絶とうとした。

その後、ゼウスは激しい頭痛を覚え、プロメテウス(一節には、ヘパイストス)に斧で自らの頭部を割らせ、ゼウスの体から甲冑を纏った成人の姿で出現したのが女神アテナである。形式上、メーティスではなくゼウスから生まれたことになった為予言を回避することになり、ゼウスによるオリュンポス支配は盤石なものとなった。

パラスの頭部には薔薇が咲いているが、上記のエピソードに関連付けたものか。ギリシャ神話には薔薇にまつわるエピソードがいくつか存在する。その一つに、美しき女神アフロディーテがゼウスに命じられて鍛冶の神ヘパイストスと結婚するものの、軍神アレスを愛人として密会を重ねる場面を息子エロスに目撃されるという話がある。アレスとの密会がオリュンポスの神々に知られるのを恐れたアフロディーテは、沈黙の神ハルポクラテスに頼んで、しばらくの間エロスの口を封じ、その御礼に赤い薔薇を送ったことから、薔薇は「沈黙」を暗示するものとなった。

星火燦々では周りから呆れられるほど多弁なパラスであったが、自らの名が知られることを嫌ったように、或いは大陸版オペレーター紹介にあるように、自身の抱える「秘密」については沈黙しているのかもしれない。

また、薔薇は図像学として「女性」「正しい方向」「人を導く」という概念と深いつながりを持っており、時折”聖杯”を表すことがある。

「沈黙」の他に薔薇に意味を見出すとすれば、「秘められし真実へと誘う聖なる女性」といったところか。

昇進2イラストに記された高度

女神アテナの有名な象徴はオリーブと梟だ。オリーブに関しては特にデザイン中には見当たらないが、鳥の群れらしきものは昇進2イラストに「Feather Beasts 832m」という表記と共に描かれている。今でこそ「梟」が女神アテナの象徴として有名であるが、伝承によってはウミワシなど別の鳥類であるケースも存在するため、一概に「梟」のみが女神アテナの象徴だと言い切ることはできない。

832mというのは、紀元前1世紀頃にダキア人が古代ローマの侵入に備えて要塞を建造したというビアトラロシエ山の標高と合致する。※パラスとローマの関係性については後述。

「Aegean 485m」Aegeanはエーゲ海を意味する。エーゲ海南東部の島、アスティパレア島の最も高い山の標高が485m。ギリシャのアスティパレア島には、紀元前105年にローマと対等な関係であることを示す碑文が残されている。

エーゲ文明(Aegean civilization)として有名な三文明は、トロイア、ミケーネ、ミノアだ。そのうち、ミノア文明はエーゲ海で重要な遺跡とされるアクロティリ遺跡を有しており、星火燦燦の舞台となったアクロティと似通った名前である。

「Altustratus 3284m」Altostratusは高層雲を意味する。高層雲は、高度2,000~7,000m(最大で13,000)付近にある雲とされる。高層雲が厚みを帯びて灰色が濃くなってくると、やがて乱層雲へと変化し、本格的に雨や雪を降らせる。

パラスが832m~3284mの狭間にいるのは、アテナが雨、晴天、春雷の女神とされた伝承に因んだものか。

水牛の群れ

パラスの頭部に生える2本の角は外側にカーブしており、薔薇に次いで目を引くデザインだ。大陸には、パラスの動物モチーフはアフリカスイギュウ(Syncerus caffer)ではないかという考察が存在する。アフリカスイギュウはサハラ以南のアフリカに分布する水牛で、一度暴れ始めると手に負えず、タイマンであれば捕食者であるライオンでさえも屠ることがある。

パラスのイラストは、大規模な水牛の群れが移動している様が描かれている。アフリカスイギュウは群れを形成し、集団で行動することが特徴の一つとなっており、捕食者から追われると子牛を中心に群れの間隔が狭まり、一頭の狙い撃ちしにくい状況を作り上げる。ギリシャ神話アテナとの関連性を見出すならば、解放・共同体の存続・意志の伝達…といったところか。

パラスはただの祭司ではなく、解放者の一面を持ち合わせている。彼女は、強者による弱者への不当な振る舞いを良しとせず、己の心底から溢れ出す怒りを動力源として武器を手にする。

ミノスの十二英雄

さて、未だ多くは語られていないミノスだが、星火燦々では十二英雄なる存在が明かされた。

でも、もしあなたがこんな話を聞いたことがあるなら――十二英雄の啓示を携えてミノスの国境に現れた一人の祭司が、ミノス人の尊厳と自由を守り、サルゴンの侵略に抗い、勝利をもたらす話を――

星火燦

十二という数字は、オリュンポス十二神になぞらえたものだろうか。同じミノス出身のフォルテであり、十二神の一柱、鍛冶の神ヘパイストスをモチーフにしていると考えられるオペレーターが、ヴァルカンだ。パラスはヴァルカンと既知の関係にあることが、パラスのボイスから伺える。

なるほど、あのかつての武器鋳造チャンピオンのヴァルカンさんがこちらにいらっしゃるんですね、願ったり叶ったりです。私のこの武器はどれほどの職人を訪ねても新品同様に修繕できませんでした。ですが、こちらのサインをご覧ください、これは彼女の……え?他言無用ですと?

パラス信頼上昇後会話1

現在実装されているオペレーターの中で、テラ世界の神に匹敵する存在としてはニェンやシーが挙げられるが、彼女たちは鉱石病と無縁であり、アーツ適正が無い。一方で、ヴァルカンもパラスも感染者であり、以下のボイスからも十二英雄は神々ではなく、ごく一般的なテラの住人であることが分かる。

ミノスの英雄たちの物語には、喜劇も悲劇もあります。ですが、十二英雄が最も偉大と言われる点は英雄となった後、皆が皆例外なく、普通の一般人として質素に暮らしていたところなんですよ。

パラス信頼上昇後会話2

数あるギリシャ神話の一つでは、女神アテナが海神トリトンの娘パラスと親友になる話が存在する。武芸に励む二人であったがある時喧嘩になり、不幸にもアテナがパラスに加えた一撃で、その命を奪ってしまう。悲しみに暮れたアテナはパラスの名を引き継ぐことになった。

この神話における女神アテナ≠パラスという関係性に、インスピレーションを得てみる。

啓示(古希:Aποκάλυψις)とは、神や超越的な存在により通常ではわかり得ない知識や認識が開示されることを指す言葉。テラの世界を眺める神々(アテナ含むオリュンポス十二神)より、ミノスの十二英雄たちは託宣(ハンドアウト)を受けることにより伝説を残した後、役目を果たして特別な力を持たないテラの住人に戻った…という考えは実にAR knights染みているかもしれない。

役目を終えた彼らに、サルゴンからの侵略に抗う力はもはや残されておらず、鉱石病を罹患し、やがてロドスへ流れ着くことになった…という顛末は何とも物寂しいものだ。

因みに現実世界の単語サルゴン(Sargon)は、古代メソポタミアの王を指す言葉であることから、サルゴンは凡そ中東付近の国々をモチーフにしていると考えられる。「時代遅れ」と繰り返し口にするヴァルカンが、ギリシャ神話の「ヘパイストス」ではなく、ローマ神話の「ウルカヌス(ヴァルカン)」を名乗っているところを見るに、サルゴンによるミノス侵略は、ローマ帝国によるギリシャ侵略を表しているとするのは考え過ぎだろうか。

女神アテナのローマ神話での名前は「ミネルバ」であり、医療の神として信仰される。傷ついたヘビーレインを治療する姿勢や、精通「応急手当」という項目からも、ミネルバとしての側面が窺える。

一般的な能力水準のテラ住人に戻ってしまったヴァルカン、パラスであるが、もし盤上の神々がロドス(ロードス島、ギリシャ領最東部)に来た彼女たちに再び神託を下すことがあるならば、今後の盤面は更に興味深いものへと変化するのかもしれない。

参考リンク

明日方舟:“帕拉斯”原型和元素考据,野牛、飞鸟与智慧女神
https://new.qq.com/omn/20210719/20210719A049AM00.html