テレジアがケルシーに遺した手紙
記録
あなたがこの手紙を読んでいるということは、きっと全て片付いた頃ね。
私に説いてくれた沢山の学説を、覚えているかしら?
私は…ずっと覚えているわ。
この大地には限りがあって、それは1つの球体の表面を僅かに覆う土でしかないと。
私たちの身体は最初からこうだった訳ではなくて、歩けるようになるまでは地を這っていたこともあると。
あの星々は私たちの足元に拡がる大地と同じように、空の軌道を進む筏であると。
ケルシー。
そんなあなたの言葉を、私はどれも覚えている。
あなたは、私たちの行いに意味を見出すよりも、自身に関する答えが知りたいと言っていたわね。
私がこの方舟にどんな思いを込めているのか、どうしてこの方舟をそんなに大切にしているのか、そんなことを何度も訊いてきたでしょう。
とても幼稚な答えだったから、結局、最後までハッキリと伝えられなかったわ。
ケルシー。
あなたの孤独は、私も感じていたわ。
自分には同類がいないと、考えていたからでしょう。
ケルシー。
私の答えはね。
この、ロドス・アイランドという方舟が、あなたの家になって欲しいと願っていたからなの。
あなたと一緒にそんな未来をこの目で見届けたいなんて、考えたことだってあるわ。
ただ、孤独に効く薬はないし、流浪の旅に終わりもない。
そして、死の病は治せない。
私は自分の精一杯をやったつもりよ。
この結末に、不満なんてないわ。
バベルの使命はここまでだけど、あなたたちと、この方舟の旅はまだ始まったばかりよ。
今、あなたが初めに抱いた疑問を解き明かすときなんじゃないかしら。
ながいながい夜の後には、ロドス・アイランドにも、きっと夜明けが訪れるわ。
温かな大地を航行する未来は、あなたたちみんなのものなんだから。
ケルシー。
私は、あなたの同類じゃないわ。
あなたの疑問を解いてあげることもできない。
だけど私は、あなたの味方よ、ケルシー。
これまでも、これからも、ずっと。